食材に華を添える。後世に残していきたい神山すだち
NPO法人里山みらい
永野 裕介 Yusuke Nagano
佐藤 強史 Tsuyoshi Sto
生産品目
- すだち
皆さんは、“すだち“と聞いてどんな料理を思い浮かべますか?
おそらくサンマの塩焼きの横に添えられた、すだちが浮かんだ人も多いかと思います。
飲食店で生すだちサワーといったメニューも最近見ますよね。
今回はそんなすだちの魅力を聞き出すべく、
日本一のすだちの産地、徳島県神山町(かみやまちょう)で、NPO法人里山みらいを運営する、
理事長・永野さんと、農家の佐藤さんにお話を伺いました。
サンマに添えるだけじゃない!すだちの意外な使い方や、
すだちの食文化を残すことに全力をかけるお二人の熱い想いを聞くことができました。
もっと気軽に使って欲しい
すだちと聞いて正直、サンマが真っ先に浮かんだのですが、町の皆さんはどうやって使うんですか?
佐藤さん「もう本当、何にでもかけます!刺身にそのままかけたり、味噌汁に入れるのも香りが立って相性良いんですよ。町長のおすすめは、炊き立てのご飯にかつお節、醤油、すだちをかけるだけという農家メシですね。夏バテ防止にポカリにも絞っています(笑)」
永野さん「すだちって香りが繊細なんです。『松茸に果汁をかけられるのはすだちだけ』というぐらい、素材を生かしてくれる。香りを分析しても何十種類も成分が出てきて、コショウと同じスパイシーな風味も奥に感じられます。まさに色んな食材を立たせる名脇役ですよね」
日本一のすだち産地・神山町
早速、町のすだち愛が伝わってきます(笑) 神山町はどういった場所なんですか?
永野さん「神山町は徳島県の中でも市街地から車で1時間ほど。いわゆる中山間地域ですね。平地に比べると寒暖差があることで、香りの立ったすだちが育つんです」
それは他の柑橘とは違うんですか?
永野さん「そうですね。みかんなど一般的な柑橘は、暖かいところで甘くなるように育てるんですが、すだちは香りや酸味が求められるんですよ。嬉しいことに料亭などからも『神山のすだちが欲しい』と言ってくださって、この町だけでも550人近いすだち農家さんがいます!平均年齢も70歳を超えてベテラン農家さんが多いです」
すだちを全国に伝えていきたい
その中で里山みらいさんは、どういった取り組みをされているんですか?
永野さん「メインはすだちを全国に広めるための活動と、すだち農家の育成ですね。以前だと、目黒のさんま祭りですだちを出したときに、『“かぼす”美味しかったです!」と間違えられて寂しい思いなどもして、、
そこで奮起して『すだち遍路』と銘打って100店舗近い東京の飲食店に新しい使い方を開発してもらったり、すだちサワーを居酒屋さんに置いてもらったりと、けっこう泥臭く活動してきました」
たしかにここ数年で、居酒屋ですだちサワーを見るようになった気がします。
今度はどんな風に育てられているのかも消費者に知ってほしいですね!
佐藤さん「あの真緑色のすだちを育てるのもなかなか大変で、実の全面に陽の光が当たるよう、葉っぱや他の小さい実を一つ一つ間引いていくんです。暑くなるとみんなビーチパラソルを開いて日陰で作業しています!」
その光景は見てみたい(笑) でもご高齢の農家さんはかなり過酷ですよね。
佐藤さん「正直、黙々と一人でやり続けるのは心が折れると思います。ただ最近ですと、農業ボランティアの子や、研修生も混ざって作業しているので、若い人とワイワイ話すのはすごく楽しそうですね」
それは活力になりますね!職人気質な農家さんも多そうです。
佐藤さん「私もはじめ驚いたのが、すだちを貯蔵するための袋も農家によって紐などこだわりが違くて!香りが飛んでいかないように毎年、袋の改良を重ねているみたいです」
神山町に移り住むまで
お二人のことを聞きたいのですが、まず永野さんは神山町のご出身なんですか?
永野さん「いえ、出身は千葉で(笑) 神山町に移住する前は千葉のヴィーガンレストランで働いていました。実は移住のきっかけは奥さんで、子どもを産める環境を変えるためにここに来たんです」
そんなきっかけが!移住するのに迷わなかったですか?
永野さん「そこはバックパッカーをやっていたこともあり、意外と即決でした!町に来たらすだちばかりでしたが、関東ですだちを使った覚えがあまりなく、色んな料理に使えるのでは?と思い、今の活動を始めたという経緯ですね」
佐藤さんは元々農家だったんですか?
佐藤さん「私は3年前に徳島にUターンしたのですが、その前は東京で25年間ナイトクラブの店長をやってまして(笑) DJも27年間やってきました」
意外過ぎる!!今の徳島でもDJをされているんですか?
佐藤さん「里山みらいに入って1年目の時に、思い切って自前のセットでDJをやったら、移住者も多いこともあり、かなり盛り上がって(笑) 今では月に4回ぐらいやる恒例イベントです」
週1(笑) お二人とも異色の経歴でもっと掘り下げたいのですが、インタビューの時間が・・・!!
すだちの食文化をつないでいく
お話の中ですだちの魅力が存分に伝わってきました。神山町の未来もお聞きしたいです。
永野さん「正直、農家の高齢化ですだちの生産量は年々減っています。農家の平均年齢も75歳ぐらいの超高齢化地域です。このままだと、すだち文化の発信地である神山町が、5年後に今と同じようにすだちを作れているか分からない。だからこそ我々、若手の力ですだちの食文化を日本に残せるよう、PRや神山町での新規就農に向けた研修などを続けていきたいです」
本当に素敵な取り組みですし、私も日本のすだち文化が続いていって欲しいと思います。最後に、すだちを食べるお客さんにひと言お願いします!
永野さん「日本一の産地・神山町で丹精込めて育てたすだちです。『食材に華を添えられる』というすだちの魅力を、ぜひ色んな料理にかけて感じていただけたらと思います!」
―インタビュアーからひと言―
元・千葉のレストランスタッフ、元・東京のクラブDJ、異色な経歴をお持ちの二人が、何故ここまで徳島県 神山町の“すだち”に情熱を注げるのか。
おそらく、それほど純粋に “すだち”という食べ物に惚れ込んでいるし、
農家さんと触れる中で、次世代に食文化をつなぐことに使命を感じたからではないかと思います。
私も試しに“すだち”を味噌汁やスープに絞りましたが、これが香りも立ってなんとも美味しい。
皆さんの食卓にも“香り”という彩りを添えてみてはいかがでしょうか。